2008年01月16日

デビュー2周年を前に

本気で役者を辞めようかと思った。

もう無理だ・・・『風車の見える丘』初日の幕が開いてすぐの僕の脳内は、何とかして形だけでも次のシーンにバトンを渡すこと、のみ。心が苦しくて苦しくて、一幕の長い長い自分のシーンが早く終わることを切に願っていた。無理な作り笑いは完全に空回りし、それを認識したことで、さらに顔が引き攣る。台詞をつなげることのみでキャパシティを使い果たし、ウルちゃんという僕の大事な役はどこにいたのかさえ自分で把握出来ていなかった。

僕には役者の資格はない・・・そう思った。

メインキャストの重圧が、ここまで身体を縛り付けるとは。確かにこれまでの僕は端役の経験しかなく、大きすぎるステップだったのかもしれない。でもプロとして舞台に立つ以上、そんな甘えは許されない。

今回のお話は大学時代の5人の仲間を中心に物語が進んでいく。主人公ともう1人は芸暦15年以上のベテランの役者さんなのだが、そんな中でも僕は1番「おいしい」役を頂いたのだ。相当なプレッシャーだった。稽古中もずっと、2人の技量に追い詰められていた。5人のアンサンブルが取れない。格好良すぎるウルちゃんに辿り着けない。苦悩の日々。

それでも本番までに舞台に乗せられるレベルまで、自信を創り上げてきたつもりだった。しかし初日の前夜はベッドに入っても殆ど眠れず、そんな自信は幕が開いた途端に崩れ去った。僕はその空間にいた全ての人に迷惑をかけ、今までにない大失敗を経験させてもらったのだ。舞台を見慣れていない知人の数名はそれに気付いていないようだったが、その日は以前ミュージカルで共演させて頂いた僕がとても尊敬する先輩も来て下さっていた。そしてちゃんと僕を見ていてくれた。

「役のことだけ考えればいいんだよ。」

全部お見通しだ。夕飯をご一緒させて頂いた席で、僕は自分の想いを吐露し続け、先輩はそれを全部受け止めてくれた上で、明日につながる言葉を僕を包むように沢山たくさん話してくれた。どんなに救われたか分からない。だって少しだけでも眠れたんだから。

しかし、昨日失敗してしまったという思い込み、嫌なイメージがどうしてもうしろからついて来て離れない。僕は開演時間まで先輩の言葉を反芻し続けた。そして自分を消し去ることに集中した。身体がすごく軽くなった。

客観的に2日目の芝居を振り返れば、まだ最終稽古のレベルにはない。それでもまだ完全には消せなかった自分の中から、ウルちゃんが大きく顔を出していた。ここまでホッとした日も生まれて初めてだった。ゆっくり眠れた。そして小さいけれど確かな自信もついて来た。

そして3日目が終わった後、以前出演させて頂いた劇団の主宰さんからのメール。

「台詞や段取りに気を取られすぎて、ウルちゃんのキャラクターが消える瞬間があるよ。一番のみんなをつなぎとめているウルちゃんが言った言葉を仲間が繰り返し話すとき、誰よりもその言葉にウルちゃん自信が何かを感じないといけないし、言われるたびに過去の自分と現在の自分の間に出来た暗い溝から自分が目をそむけるって言うのかな。そういう台詞じゃない部分をもっともっと大事に演じてごらん。」

本番を通して役者という仕事が、少しづつだけど身体で分かってきた。それはこの大きな役に挑んでいることがきっかけではあるけれど、こうやって僕を見てくれている尊敬できる先輩の存在がとても大きい。結果を残してきた人たちの具体的な言葉には、深い愛情を感じる。そんな凄い人たちが、僕を想ってくれている、応援してくれている。素直に頑張ろうと思える言葉って、実はとても貴重だ。

感情に脆い僕ではあるけれども、それが故かすぐに頭を使いたがる傾向にある。それが舞台上では役の邪魔をする。上演中は舞台上にいたり、幕の袖にいたり、楽屋にいたりするが、その間「自分の頭」と「役の心」を的確に繋いだり、切り離したりしなければならないんだ。その作業が未熟。何かのちょっとしたはずみで「自分の頭」が反応し過ぎてしまう。習性が分かった。

4日目、終演後のロビー交流会で、原作を読まれたというおじさんが、本の中からウルちゃんが本当に飛び出してきたようや、とべた褒めしてくれた。5日目、マダムがgenjiさんのファンになりましたと言ってくれた。千秋楽、これまで全日程のアンケートを読んでいたら、「ウルちゃんが良かった!!」「ウルちゃんの声がとても魅力的でした。」「ウルちゃんの最後のシーンに感涙しました。」「ウルちゃんが・・・」「ウルちゃんの・・・」組織票は抜きにして、初見で僕を見てくれた人たちから、これ程までに何かを感じとってもらえたことが、もう本当に本当にむちゃくちゃ嬉しくて・・・

役者を続けることにしました。笑。

最後になりましたが、こんな未熟者にチャンスを下さった平石耕一さん、原作者の旭爪あかねさん、共演者・スタッフの皆々様、高いチケット代にも関わらず、たくさんのプレゼントを持って観に来てくれた83名の大切な大切な僕のお客様、笑、そして全てのお客様に感謝の意を込めて・・・



回れ!



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この記事へのコメント

1. Posted by tsuyo_any    2008年01月16日 15:02
はじめまして。tsuyo_anyといいます。コメントありがとうございました。
1/11に観に行きました。サラリーマンの私にとって遅い開演は非常に有難かったのですが、出演の皆さんは大変だったのでしょうね(汗)

舞台鑑賞初心者なので何も分かっちゃいませんが、ウルちゃん、とっても難しそうな役ですよね。でも“キャラクター”はしっかり伝わってきましたよ。酒井さんの雰囲気も声もピッタリだったんじゃないかと思います。ちなみに酒井さん演じるウルちゃんが私の友人(トラック運転手!)にどことなく似ていて最初から好感度がちょっと高めだったのもありますが...(^^)

素敵な週末の夜を過ごすことができてとても気持ちが良かったです。これから演劇を少し興味を持って見てみたいと思っています。酒井さんも応援していますので、頑張ってくださいね!
2. Posted by まさ    2008年01月16日 21:47
やっぱり、素人目ではわからなかったけど、いろいろと難しいんだなあ。

素人の俺には何も言えないかもしれないが、演劇関係者は演じる側のことを知っているからすごく深い意見や感想になると思うけど、多くのお客さんってそういう人ではないんじゃない?(よくわからないけど・・・)
だから、素人の人をいかに楽しかったって思わせるかって事も重要なんじゃないだろうか。
その点では、今回は良かったと思えるんだけどなあ。

俺も次回からは、もっと演劇関係者目線で見てみようかな。
いや、いかんいかん、それじゃ楽しめなさそうだ・・・
3. Posted by ムーミン    2008年01月16日 23:37
とにかくお疲れ様でした!
今、旅公演で福山にいます。
Gさんの活躍は僕にとってとても良い刺激になります。
ともすると「オレって裏方?」みたいに自分が何故ここにいるのかを見失いがちになりそうですが、本来の目標を忘れずに頑張ろうと・・・微妙に所信表明になってしまいましたが、僕もGさんに負けないよう頑張る次第・・・まただ
4. Posted by genji    2008年01月17日 11:27
>tsuyo_anyさん
嬉しいです。そんな風に言って頂けて。いろんなご縁で同じ空間にいられたことに感謝します。重ねてありがとうございました。こちら「舞台ビギナーズ!」ですので、また是非覗いてみてください☆

>まささん
前出の主宰の方からも、結局はお客さんに何を伝えられたかだから・・・とまささんと同じようなことを言って頂きました。ありがとうございます。その通り!関係者目線なんて、まささんにとってはチケ代の無駄使いですよ。笑。

>ムーミンさん
初日おめでとう!?その疑問は常に持っていないとね、時は無常に過ぎ去って老いていくばかり・・・ってなんて先輩づら。プライオリティを明確にしておけば大丈夫だよ・・・まただ
5. Posted by さゆりん    2008年01月17日 23:12
最初に飛び込んできた、「役者をやめようと思った」という出だしにドキッとさせられました。外部出演で大役をもらい、いろんな意味で今まで経験をしていないことであっていろいろ葛藤があったと思います。だけど、いい経験をされたのですね。genjiさんを支えてくれる素敵な先輩がいるのですから。今回のことはgenjiさんにとって次のステップを踏むのに大事は試練だったのではないかと思いました。文章の中でgenjiさんがたくましく成長したのがわかります。まだまだ、これから。。。さらに成長していけるはずだと私は信じています。
本二日で読み終えました。うるちゃんのことも気になったけど、風車やたんぼなどがどんなふうに舞台にのるのかも気になりました。
6. Posted by genji    2008年01月18日 01:30
>さゆりんさん
風車は後援して下さった天栄村から模型をお借りしたんですよ。かなり精巧なやつを・・・電動ですけどね。笑。田んぼは擬似稲を作って、舞台上の至るところに植えるシーン等々あって、結構手が込んでました。共に無対象で処理するシーンもありますが、そんな時は遠くにある大輪の風車を眺めてました。僕も自分自身の成長を信じて頑張ります。ありがとうございました☆
7. Posted by だんぼ    2008年01月18日 12:58
ええー!役者を辞めようと思ってた!?なんて、舞台から飛び出してきた時のGさんからは微塵も感じられませんでしたよ!
初日に色々あったみたいですね。私は最終日に駆けつけましたが、本当にGさんの堂々として演技力や声の良さにとても感動しました。(組織票なんかで片付けないでくださいよッぷんぷん!)
たくさんの苦悩を抱え、その素直な性格で一つずつ吸収して乗り越えていくGさんの姿は見ていてとても尊敬できます。
今回のメインキャストという大きなステップを経て、更に飛躍するGさんに期待してます!これからも一ファンとして応援してますので頑張ってくださいね☆ だんぼ
8. Posted by genji    2008年01月19日 09:14
>だんぼ
だんぼはいつも100点満点だなぁ・・・でもだんぼみたいな人にもっとたくさん舞台観て欲しいな。ありがとよー☆
9. Posted by goldberg2006    2008年01月23日 21:53
>原作を読まれたというおじさんが

うーん、私のことかな…。


(「新くん」がもうちょっと「ひょろっと」してたら、5人とも文句なしだったかも。)

しかし、平石さんというのはすごい人だとおそれいりました。
10. Posted by genji    2008年01月24日 10:54
>goldberg2006さん
本当ですか!?あのお言葉で僕の心は融解したように思います。ありがとうございました。平石さんはすごいです。いろいろすごいので、どのパーツをおっしゃってるのかが分からないところが、またすごいです。笑。

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